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就労支援の限界とキャッシュフォーワーク

コロナ禍の中で、就労支援には何ができるのか?前編

· コロナ対応

オンラインで行われた8/6のキックオフイベント『コロナ禍を機会とした、雇用による若者支援を考える』には、80名が参加。レポート前編では、スピーカー3名のプレゼンの内容を届けます。

まずは、関西大学社会安全学部教授であり、キャッシュフォーワークを提唱された永松伸吾先生に、キャッシュフォーワークとは何かについてお聞きしました。

自分自身の存在価値を取り戻していくことが、キャッシュフォーワークの本質

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1960年代頃から、飢饉があった地域の住民に働いてもらい、対価として食料を配る”フードフォーワーク”という支援がありました。しかし、食べ物を配らなくてもお金があれば食料にアクセスできるということで、現金を用いた支援としてキャッシュフォーワークが生まれました。国際的な人道支援の場で使われている手法で、生活向上のためにインセンティブを付与すること、稼いだお金を地域の中で使って地域経済の中でお金が循環することの2点がメリットに挙げられます。

実は日本でも古くから行われており、1854年の安政南海地震では、濱口梧陵という政治家・社会事業家が、私財をなげうって堤防建設事業を実施しています。津波で農地がやられて仕事がなくなった農民たちを雇用し堤防の建設を行い、それに加えて堤防にハゼノキを植え、それを材料にロウソクづくりの事業を行っていました。

しかしその後ずっと、日本でキャッシュフォーワーク的な事業は行われませんでした。そんな中、2004年の新潟県中越地震で、小千谷弁当プロジェクトを見つけました。普通の災害支援では外部で弁当をつくって被災者に渡すことが多いですが、小千谷では被災地の業者が弁当をつくり、被災者が被災者に配布していた。大いなる知的刺激を受けて、研究をはじめました。

非常に印象深いのは、弁当プロジェクトに参加した割烹を経営する方が、「せがれが『跡をつぐよ』と言ってくれたよ」と。食に関わるものとして地域の復興に貢献できたことで、息子さんも実家の仕事に誇りを持ったそうなんです。また中心として動いていた組合長さんは「義援金も非常に有り難かったが、自分たちの仕事で得たお金は、また格別のものを感じた。この仕事で、考え方も変わってきたように思う」と話されました。生きがいや誇り、自分たちが復興に関わる充実感がすごく重要であると感じました。

東日本大震災が起きたとき、またこういうことをやれないかと思い、キャッシュフォーワークの考え方をウェブで公開したのです。どう日本語に訳すかを考えて、「労働対価による支援」としました。あえて雇用という言葉は使わずに、働いて対価をもらうことが大事であるとしています。そしてあくまでもこれは「支援」であるということです。東日本大震災での実際のケースとしては、仮設住宅で買い物に出づらい高齢者に向けて地域の住民が行商を行う”相馬市買い物支援隊”。他には漁網をミサンガとして編んで販売するコミュニティビジネスのような取り組みもありました。「ありがとうと言われることがうれしい」「この仕事があるからここで生きていく決断ができた」という声が、参加した被災者からは出てきました。

雇用をつくることも大事ですが、孤立している人々、仕事を失って社会から阻害されている人々が、復興に関わることによって自分自身の存在価値を取り戻していくこと。それがキャッシュフォーワークの本質ではないかと考えています

次に、株式会社re:terra代表取締役であり、震災後に東北で起業して地域の女性を雇用した産業創出に取り組んだ渡邉さやかさんに、事業者として感じたことを聞いていきます。

「子どもの預け先がない」など、女性はより就労課題を持っている

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被災地の失業の状況を振り返っていくと、震災直後は失業者は増えたものの、7〜8月にはまた戻ってきています。背景には、人口流出や労働人口の減少があると言われています。また就労状況は、震災直後は就労件数・就労率が下がるも、その後回復。復興需要もあって、6月以降は就労率も全国平均を上回っています。

ジェンダーの観点から見てみると、2013年に行われた内閣府のアンケート結果を見ると、すべての課題において女性の方が、就労に対してより課題を持っていることがわかります。特に、”世帯主の失業死亡により新たに働かなければならない”や”こどもの預け先の不足により就労困難”について困っているとあげた女性が多い結果となっています。

復興期間の中で鍵となるのは、仮設住宅に移動し、働ける環境が整ったタイミングだと考えています。はたしてそのタイミングで女性にはどういう仕事があったのか? 当時を振り返ると、NPOや社会起業家と言われる人たちによって始められた事業は、お金になるというよりは、集まっておしゃべりしながら手を動かすようなコミュニティビジネスが多かったのではと思います。

私が役員を務めるラポールヘア・グループは、震災後に美容室を創業した会社です。第1号スタッフは、働いていた美容室が流されてしまい仕事を探していた20代女性です。「働いていた場所がなくなった」というだけでなく、おじいちゃんおばあちゃんが流されたり保育園が流されたりで、「子どもを預ける場所がなくなった」という声も多くありました。

保育園や学校に預けている間に子どもが流されたという方たちもおり、「預けるにしても目の届くところに子どもにいて欲しい」というニーズがあり、キッズルームを併設した美容室を展開しています。あとは「家から30分以内で通える場所で働きたい」という声は、当時も今もあります。こういうのは女性ならではの声ではないかと考えています。

また、私が代表を務めている三陸椿ドリームプロジェクトでは、椿を使った化粧品をつくってきました。地域の人に拾ってもらった椿の種を1キロあたりで買い取り、地元の製油所に精油をお願いし、種の選定やラベリングは地域の障害者授産施設にお願いしました。化粧品をつくる工場を建てるには、資本力も専門知識も足りなかったので、化粧品はOEMでつくっています。

当初は「現地に産業を、現地に雇用を」と言っていましたが、椿の実がなるのは年に1回で季節産業なので、実際のところは年間を通じた雇用は難しかったです。苗を植えて椿の畑をつくっても実の収穫までに何年もかかり、事業的に難しさもありました。今は種だけじゃなく葉っぱも活用してお茶もつくるようになり、実の時期だけでなく仕事をしてもらえるようになりました。

一次産業は季節産業であることが多く、繁忙期と閑散期の差が多いように思います。昔は、東北の田舎から冬季だけ東京に出稼ぎに出ていた人がいますが、そういうことが起こりうる。そこで、いくつかの事業者と協力し合うことで、安定して仕事をつくることもできるのではないかと、地域でも議論になりました。今はユニバーサル就労センターなどとも連携し、障害者や高齢者にも関わっていただいています。

中小企業の雇用の限界として、緊急支援フェーズは資金面で自分たちも苦しい状況だったりします。立て直していくための人手が足りないのは事実だけれど、人を雇うお金もなかったりする。災害に備えて事前に人を雇っておくことも中小企業ではなかなか難しいのです。その中でキャッシュフォーワークや今回のような助成が活きるのではないかと思います。

また雇用主側としては、仕事を誰でもできるようにブレークダウンするのが手間だったりするのですが、「(キャッシュフォーワークを考えた時に)誰でもできるような仕事である必要があるのか?でもブレークダウンしないとすぐに働いてもらえないのではないか?」というところを考えてしまうので、その辺りが明確になっていると良いなと思っています。 

最後は、育て上げネット理事長の工藤啓。これまで就労支援をやる中で感じてきた限界について、話しました。

福祉でも雇用でもない”中間的就労”の必要性は、コロナによって拡大している

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日本では失業が増え、休業者も数百万人いる状況。若い世代にも失業ダメージは直撃しています。若い人は、キャリアの初速のつまづきが、将来のキャリアにも大きく影響する。「今年はコロナだからしょうがないよね」と言ってもらえても、5年後10年後には「なぜもっと頑張らなかったのか」と自己責任を突き付けられるかもしれない。新たな就職氷河期世代がうまれるリスクなのではないかと考えています。

育て上げネットで関わっている約130名の利用者に「生活はどうですか?」と聞くと、収入の減少や失業により家庭で過ごす時間が長くなっています。親との関係の密度が濃くなり、関係性が悪くなってメンタルが落ちている人が6割ほどいます。彼らは「行く場所が欲しい」「できれば仕事もしたい」そうです。コロナがどうなるかわからないし、在宅ワークだったり、自宅でなにかを作ってネットで売ってみたりする機会を模索しているという声もあります。

さまざまな福祉制度の活用が難しく、けれど一般就労や雇用が難しい方にどのような雇用のあり方を模索するのか、”中間的就労”というテーマが昔盛り上がりました。議論の中でネックになったのは、「時給相応の働きをすることが難しいひとに最低賃金を払うのは、民間としては明らかに不可能なビジネスモデル」ということでした。

キャッシュフォーワークは、この”中間的就労”の可能性だと思います。必ずしも福祉と労働の間だけが”中間”ではありません。今回のコロナや災害などによって失業者は増え、例えば、「働ける」が「すぐに働ける先がない」というような”中間”とされる領域は拡大しています。そこになんらかの施策をしていかなければいけません。

日本では次のキャリアの訓練をしている間に十分な資金が拠出される制度がほとんどありません。非正規で働いていたり生活ギリギリの方は、今の仕事を止められないから、次の仕事につくための準備ができない。結局のところ、就労支援や職業訓練が受けられる方は、自宅や生活が一定担保されていて、精神的な余裕もある方のみ。それが就労支援の限界でした。

キャッシュフォーワークでは、支援を受けながら、生活を支える収入も入る。お金の面を課題とせずに次のキャリアに向かえるというトランジションとなるのではないかと思っています。次の仕事につくために、一定期間でも一定の収入を若者に持たせてやれるというのは非常に大きなことです。やりがいや生きがいとともに仕事を渡して収入を得てもらうのが大事で、ベーシックインカムとも違う点なのかなと思います。

地域を守っている非営利組織の方たちが雇用という形で若者とかかわり、コロナで動けなくなった地域の仕事を担っていったり、地域の課題を解決していく。これからの日本を支えていく若い世代がキャッシュフォーワークという手法で尊厳を取り戻し、次の仕事についていく。そういったことができればと考えています。 

書き手・田村真菜(「キャッシュフォーワーク2020」広報)

<コロナ禍の中で、就労支援には何ができるのか?後編>はこちら

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