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経済価値と文化的価値のギャップを埋められたら(前編)

アート市場の革新を目指す起業家 原麻由美

新規事業やブランドの立ち上げで成果をあげてきた彼女が、伝統文化やアートの可能性と出会うまで

——ここ5年ほどの傾向として、ベンチャービジネスの世界にも、社会貢献を追求する起業家が増えている実感があります。今回紹介する起業家・原麻由美さんもその一人。原さんが2015年に起業した「フレームダブルオー株式会社」を基盤とした活動にフォーカスし、話を伺いました。前編ではまず、原さんの起業の背景に迫ります。

新入社員で年商1億円を達成したベンチャーでの経験

——量的な成果を残せる社会起業家は増えてきましたが、それだけで世界が変わる気はしていません。では質的な変化はどうすればつくれるのだろうか?と。だから、まずは、そういった側面で新しい「社会起業家」像を見せてくれる起業家から話を聞きたいと思い、今日は原さんにお声がけしました。

いま32歳なのですが、まずはこれまでのことをお話しすると、2007年にメーカー系のベンチャー企業に就職しました。どんどん新しいブランドを立ち上げる会社の中で、新規事業をつくることが仕事でした。

なにをしていたかというと、ブランドのECサイトをつくり、お客様に届けるプロモーションを行って、ファンを育てるという一連の仕事に関わっていました。新入社員としてひとりで始めたのですが、すぐに年商1億円まで伸ばすことができました。あ、しばらくアートの話はでてこないので、気長に待っていただいたらと思うんですけれど(笑)

取材は公開インタビュー形式で実施。この日に居合わせた3分の1ほどが、アートのバックグラウンドを持つ方々に。

入社から1年後に最年少部長になった後も、Eコマース事業を育てていました。その後、2008年に会社が上場して勢いは良かったんですが、リーマンショックが起きまして、メーカーはすごく打撃を受けたので、ものが売れずにかなりしんどい状況でした。しかしもう上場をしているので予算があり、「とにかくたくさん売りましょう」と、予算を重視する事態になってしまったんです。

私自身はブランドをつくるというゼロ地点から仕事にかかわっていましたので、「たくさん売ろう」という姿勢がどうしても合わなくなってしまって。新しいものをつくってどんどん売るサイクルを毎年繰り返すよりも、例えばAppleのように長く愛される商品をつくればいいのではと思うようになってきて、仕事に対する関わり方に疑問が生まれました。会社自体を良くするための経営企画も兼任させていただいていたのですが、経営陣と話していてもちょっと通じないなと。

——スピード感の違いとか、そういうことも話していたよね。

会社をもっと良くしていきたいという気持ちと、経営陣の温度感にどうしてもギャップを感じて辛くなってしまって。担当していた事業自体は年商3億規模になっていましたが、新規事業をつくり、部下も育てて、経営企画をやり、全社の顧客管理のシステム開発やマーケティングまで手がけていて、一通りのことを学ばせていただいていたので、もういいやと一気に辞めてしまったんです。

「あなたは起業したほうがいい」。転職活動での出会いが起業に

勢いで辞めてしまったあと、これまでに学んできたことに加えてファイナンスの知識をつければ起業に近づくのではと、ベンチャーキャピタルで働こうと、いろんなところに行って話を聞いていました。スタートアップに投資をするベンチャーキャピタルの方に「就職したい」とメールをしたら会っていただけました。すると「転職者の募集はしていないけれど、支援先のベンチャーの新規事業や経営企画の担当者として紹介できるかもしれない」と、支援先を紹介してくださり、何社か面接に行きました。紹介者のベンチャーキャピタルの社長が面接に付き添ってくれていて、2社くらい面接した帰りに、その社長から「あなたは起業したほうがいい」と言われて、その場で出資が決まりました。

——「起業したほうがいい」と言われたわけを、いまはどう受け止めていますか?

おそらく考え方だと思います。「こういうことに納得がいかない。だからこういう社会をつくりたい」と説明をしていたので、それなら転職ではなく自分で(会社を)つくりましょうということだったと。

ちょうどFacebookが日本に上陸したタイミングで、企業がものをつくり、お客さんに届ける、プロダクトアウトのビジネスの流れをガラッと逆転されられるかなと思っていました。そこからSNSのプラットフォーム上で動くウェブサービスをつくったり、企業のSNSのマーケティングコンサルを始めました。

当時の日本にはSNSのマーケティングコンサルを行う専門の会社がなかったので、実はすごく当たりました。いまはもうたくさんあって、ちょっと淘汰され気味なんですが、その頃はニーズが強くて、大企業さんからファッションブランドまで、一通りのマーケティングをお手伝いさせていただいていて。私自身のEC新規事業やブランドを立ち上げた経験も強みになって、かなり広がったんです。

——原さんはビジネスセクターでものすごく成果をあげているんですが、めちゃくちゃ数字に強いんですよね。大学生の時に趣味で投資をやっていて。

はい、ずっとやっていました。経営分析とまではいかないのですが、いろんな会社のIRを印刷して、マーカーで線を引いて。

——数字を見れば結果が出せるとは信じているんですが、あらためて成功の要因はなんでしょう?

いまも新規事業のサポートを仕事にしているのですが、いままで、ゼロからつくる繰り返しでした。ブランドを立ち上げて、お客様に届けるマーケティングをし、集まってきたお客様とのエンゲージメントを育てる。システムが必要だったらエンジニアを雇って自分でシステムを構築するという、本当にその繰り返しです。それを全部みるということでしょうか。

「長く愛される」「いい」ブランドを模索するなかで、文化・芸術の価値にあらためて気がついた

——しかし、自分で起業した1社目の会社では、思っていたようにはいかないこともあったと。

長く愛されるブランドをつくりたいんですね。ですが、ビジネスが広がった結果、お客さんが増えれば増えるほど、いろんなお客さんがでてきてしまって。商品自体があまりよくないのに、マーケティングや広告で売ろうとする方々などですね。「マーケティングしたら売れるでしょ」と思っている方が中にはいるので。

——そうだったんですね。

その時は社員が10名ほどで、事業としてはすごく伸びていたんですけれど、やっぱり自分はブランドをゼロからつくるところからやりたいなと思って。共同創業でしたので代表がいて、私が副代表だったのですが、代表と話し合って、自分でつくった1社目の会社を整理しました。代表はソーシャルメディアに特化したいと考えていて、私はブランドをつくるところからやりたかったんです。

——新しいブランドをつくりたいということ?

新しさにこだわりはなくて、いいブランドをつくりたいんです。それが既存のブランドを育てることでもよくて、自分が関わった仕事の中で、よりよいブランドにしたいという意味ですね。「いい」という言葉を価値と捉えているのですが、他にないコンセプトやメッセージを伝えようとしているとか、ちょっと抽象的ですが。そのブランドの歴史を受け継ぐ新しい理想像をつくるのが仕事なので、自分がメッセージを伝えたいということもちょっと違います。

——フレームダブルオー株式会社の創業に至るまで、それからどんなことが?

共同創業した会社を整理してからは、「ブランドを育てるってなんだろう」と、ゼロから考え始めました。いったん仕事をリセットして「何をいいブランドというのか」と、いろんな人に会いながら考えて探していました。

一番衝撃的だった出会いは寺院建築をされている会社の社長さんとその娘さんです。彼らの課題には経営の厳しさがあると伺いました。一方で、彼らの仕事は国宝の修復など、100年先も続く仕事であり誇りを持っています。日本だけではなく世界的に価値の高い事業を手がけていながら、彼らの年商がミクシィの月商と同じだということを知ったのがショックで。

それがきっかけで、文化的な価値と経済的価値のギャップを、自分が関わる仕事の中で埋めることはできないかと考え始めました。それで、2014年からの1年間を伝統文化の担い手やアーティストに会うことについやして、2015年にフレームダブルオー株式会社を立ち上げました。

——こうした実力を持つ人が、いわゆるNPOやソーシャル・ビジネスに向かわずに、逆にビジネスそのものを変えてしまおうと舵を切りつつある。中には、原さんのように伝統文化やアーティストとの出会いがある。ただ、そこで、原さんの考える、文化的価値ってどんなものでしょうか。

メーカーの仕事から考えると、メーカーでいま売っている商品は、来年には新しい商品に換えられてしまいます。そんなものをたくさん売ろうとしていたのですが、一方で伝統文化の方々はひとつのものをつくって修復して、100年先も200年先も残していこうとしています。それが、いままで自分がやってきた仕事とあまりにも真逆で。

——すくなくとも、今年売れるかどうかとは違う。

持続年月と、関わる人たちの差ですね。「この人に届けたい商品」ではなくて、「世界中の人が訪れたくなる建造物」というか。自分が何に動かされたのか、言語化がすごく難しいです。

原麻由美

フレームダブルオー株式会社代表。メーカー系ベンチャー企業で、新規事業責任者としてEC事業立上げに従事。1年後に最年少部長となり、IPOを経て独立。2015年FRAME00設立。企業価値を高めるブランド戦略の支援に加え、アーティストのプラットフォーム構築に挑戦する。

ベンチャーキャピタル

急成長を目指すベンチャー企業に投資を行う事業体。銀行からの融資とは違い個人保証などは必要はないが、その代わり、少なくとも年間倍々での事業の成長と短期間での株式公開を目標とすることを求められる。

上場を目指すか、違う価値を目指すか?

ベンチャー投資が産業として登壇すると、「資本主義の高速道路」のようなものが築かれていく。彼らから投資を受けて、世界に巨大な影響を与える企業として成長することが王道として整理されていく一方、その生態系の中で原のような新しい価値を求める起業家も増えていく傾向はたしかに存在する。

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